2022年10月、岸田首相の所信表明演説で、今後5年間でリスキリングに1兆円を投じると発表したことで、リスキリングへの注目がますます高まりました。

若手社員は、自分のために自分のキャリアを創造していきたいという志向のもと、軽やかにリスキリングにも取り組んでいると言われています。

一方で40代50代はこれまで、会社の中で成果をあげ成長することでキャリア形成をしてきた世代であり、自分で新しい道を描きにくいかもしれません。

さらに、DXという言葉にもなんとなく抵抗感を覚え自分事にもなりにくい。何かを勉強した方がいいと頭でわかっていても、いったい何を学んだらよいのかもわからず、踏みとどまってしまう方も多いのではないでしょうか。

学ぶ目的を考える

リスキリングの話をしていると「プログラミングを勉強してみようかな」「資格を取るならITパスポートかな」といった声もちらほら聞こえてきます。

何かを学ぶことによって刺激を受け、視野が広がり新しい可能性に出会うこともしばしばあるので、時流に乗ってまず勉強してみることも時に大切だと思います。ただ一方で、学ぶことがすべてリスキリングかというと、それは違うのかなと思っています。

前回のコラムでも、リスキリングの進め方について触れました。リスキリングにおいては、身につけるべきスキルを定め、現状とのギャップに着目して学ぶこと、そして学んだ内容を実践することが重要とされています。

仮にプログラミングを学んだ場合、それをすぐに仕事で実践できるというケースはどれくらいあるでしょうか。仕事と結びつかず、せっかく時間を割いて学んだことを活かせない状況も考えられます。

また、日々の仕事に忙殺されている40代50代の方が自主的に学習するハードルは高いものです。私は小学生の頃に添削型の通信教育講座の勉強を続けられなかったという記憶があり、そもそも自身の自主的な学びの継続力には自信がないのですが、きっと同じような方も多いはず。

よほど楽しいか、あるいは強制されるかでなければ、学びには明確な目的が必要なのではないかと思います。

キャリアコンサルティングで見つけるリスキリング

どのスキルを、どのような目的で身につけるのか、身につけた後はどのように活かしていくのか、その答えを見つける方法のひとつが、キャリアコンサルティングではないかと思っています。

キャリアコンサルティングとは、「労働者の職業の選択、職業生活設計又は職業能力の開発及び向上に関する相談に応じ、助言及び指導を行うこと」と定義されており、これを実施するキャリアコンサルタントは、2016年より国家資格と定められています。

こう書くと、専門家が答えを教えてくれるの?と思うかもしれませんが、答えを見つけるのは本人、キャリアコンサルタントはその支援を行います。

まず、過去の経験を棚卸してみるという方法があります。これまでの経験において、やりがいを感じたこと、身につけた能力、嫌いなことや苦手なことを整理してみます。ここで浮かび上がる強みを活かし、さらに磨きをかけていくためのリスキリングを考えてみるのです。

たとえば営業の第一線で活躍を続けてきた方が、人間味のある顧客との関係構築を強みとしているとします。

オンライン商談を活用して、半年に一度しか訪問できなかった遠方の顧客と頻繁に接点を持つことができるようになる、データ分析を学んで、顧客への提案の精度が上げる、プログラミングを学んでWebから見込み顧客情報リストを自動作成して効率化を図り、顧客との対話の時間を増やす、など強みを活かすための学びが考えられます。

もうひとつ、将来をイメージするという方法もあります。

たとえば、70歳の自分のありたい姿をイメージしてみます。「今と変わらずバリバリ働いていたい」「仕事はせずに悠々自適に旅行三昧の生活がしたい」など漠然としたもので構いません。

40代以上になると、これまで重ねてきた20年程のキャリアをベースに、この先20年もなんとなく想像できるのではないでしょうか。現在の延長線にある将来と、こうなりたいというイメージとの間になにかギャップや不安があるなら、そこがリスキリングの対象になり得ます。

自分自身の興味関心や大切にしたい価値観は、無意識すぎて、いざ言葉にしようと思っても実はとても難しいものです。いきなり「何を学ぶか?」を考えるのではなく、まずはキャリアコンサルティングを通して自分自身を理解することから始めてみませんか。

変化する時代だからこそ、ぶれない軸を

私が新卒で営業として社会人のスタートを切った時、先輩から買うように勧められたのは、B6サイズくらいのコンパクトな地図でした。その地図を営業カバンに入れ、毎日歩き回っていたのをよく覚えています。

気付けばスマホが、地図や顧客の名刺や過去の商談情報をすべて教えてくれるツールになり、それを使う私たちも随分デジタル化に適用してきました。今までも十分にリスキリングしてきているのです。それでも今これほどにリスキリングが叫ばれるのは、過去に経験してきたのと比べ物にならないスピードで社会が変化しているからなのでしょう。

激流に流されないためには、しっかりと自分の軸で立つことが大切。リスキリングという言葉の流行に惑わされず、自身の価値観や強みに合った学びを、私自身も見つけていきたいと思っています。

弊社では、各種研修やキャリアコンサルティングサービスも取り扱っております。ご関心のある方はこちらまでお問合せください。