2019年4月1日から順次、施行されている働き方改革関連法。2020年4月1日から(中小企業は2021年4月1日から)は、同一労働同一賃金が施行されます。同一労働同一賃金とはいったいどのような制度なのでしょうか。

「同一労働同一賃金」とは?

2015年10月に発足した第3次安倍晋三改造内閣により、少子高齢化に歯止めをかけ、50年後も人口1億人を維持し、家庭・職場・地域で誰もが活躍できる社会(一億総活躍社会)を目指すという宣言がなされました。

一億総活躍社会の実現に向けた様々な取り組みの中で、最大のチャレンジとされている「働き方改革」は、働く人々がそれぞれの事情に応じた多様な働き方を選択できる社会を目指すことを目的としています。

働き方改革のポイントは、以下の2つです。

(1)労働時間法制の見直し
(2)雇用形態に関わらない公正な待遇の確保

同一労働同一賃金は、(2)を実現するために、同一企業・団体におけるいわゆる正規雇用労働者(無期雇用フルタイム労働者)と非正規雇用労働者(有期雇用労働者、パートタイム労働者、派遣労働者)の間の不合理な待遇差を解消し、どのような雇用形態を選択しても納得が得られる処遇を受けられ、多様で柔軟な働き方を選択できることを目指しています。

一言で「働き方改革」「同一労働同一賃金」と言うものの、数多くの法律がかかわってきます。自社においてどう対応するかを考えるために、まず何によってどのように定められるのかを確認することが必要です。 

「同一労働同一賃金」は何によって定められているか

同一労働同一賃金の対象である、有期雇用労働者、パートタイム労働者、派遣労働者に対し、雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保を実現させるため、ガイドラインが整備されました。

雇用形態に関わらない公正な待遇の確保(厚生労働省) https://www.mhlw.go.jp/content/000536884.pdf

※「短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律」は、「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律」(いわゆる「パートタイム・有期雇用労働法」)に名称が変更されます。

不合理な待遇差を解消

(パートタイム労働法、労働契約法、労働者派遣法)

改正された法律では、同一企業内において、正規雇用労働者と非正規雇用労働者の間で、基本給や賞与などのあらゆる待遇について不合理な待遇差を設けることを禁止しています。

また、裁判の際に判断基準となる、「均衡待遇規定」、「均等待遇規定」を法律で整備し、ガイドライン(指針)によって、どのような待遇差が不合理に当たるかを明確に示しています。

同一労働同一賃金ガイドライン(厚生労働省)https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000190591.html

労働者に対する待遇に関する説明義務の強化

(パートタイム労働法、労働契約法、労働者派遣法)

非正規雇用労働者は、正規雇用労働者との待遇差の内容や理由などについて、事業主に対して説明を求めることができるようになります。

事業主が説明を求められた場合は、比較対象となる正規雇用労働者(無期雇用フルタイム労働者)との間にある待遇差の内容とその理由について説明する必要があります。

説明の方法は、非正規雇用労働者が説明内容を理解することができるように、資料(就業規則や賃金表など)を活用しながら口頭で説明することが基本となります。ただし、説明すべき事項を全て記載した資料で、容易に理解できるものを用いる場合には、その資料を交付する等の方法でも差し支えありません。

行政による履行確保措置および裁判外紛争解決手続(行政ADR)

行政による事業主への助言・指導等や行政ADRの規定が整備されています。「均衡待遇」や「待遇差の内容・理由に関する説明」についても、行政ADRの対象となります。

※行政ADR…事業主と労働者との間の紛争を、裁判をせずに解決する手続きのことをいいます。

「均等待遇」・「均衡待遇」とは?

不合理な待遇を解消するために、規定された「均等待遇」と「均衡待遇」。均等と均衡、このよく似た言葉ですが、その中身は大きく異なり、その考え方が同一労働同一賃金で重要なポイントになります。

具体的にどのような違いがあるのでしょうか。

均等待遇とは

均等待遇とは、

(1)職務内容(業務内容・業務に伴う責任の程度)
(2)該当する職務の内容および配置の変更の範囲(人材活用の仕組み)

が同一である場合には、非正規雇用労働者の待遇について、正規雇用労働者と比較して差別的取扱いをしてはならないとするものです。

ただし、上記(1)と(2)が異なる場合であっても、以下のような待遇については、同一の支給を行わなければなりません。

【各種手当】
特殊作業手当(業務の危険度または作業環境に応じて支給されるもの)、特殊勤務手当(交替制勤務などに応じて支給されるもの)、時間外労働手当の割増率、深夜・休日労働手当の割増率、通勤手当・出張旅費、食事手当、単身赴任手当、地域手当(特定の地域で働く労働者に対する補償として支給するもの)等

【福利厚生】
福利厚生施設(食堂、休憩室、更衣室等)の利用、転勤者用社宅(転勤の有無等の要件が同一の場合)、慶弔休暇、健康診断に伴う勤務免除・有給保障、病気休職、法定外の有給休暇、その他の休暇等

均衡待遇とは

均衡待遇とは、正規雇用労働者と非正規雇用労働者の待遇に相違がある場合に、

(1)職務内容(業務内容・業務に伴う責任の程度)
(2)当該職務の内容および配置の変更の範囲(人材活用の仕組み)
(3)運用その他の事情

の3つの要素を考慮して、不合理であってはならないとするものです。

具体的な均衡待遇の考え方は以下のとおりです。

【基本給・昇給】
基本給は、労働者の能力または経験に応じて支払うもの、業績または成果に応じて支払うもの、勤続年数に応じて支払うものなど、それぞれの趣旨・性格に照らして、実態に違いがなければ同一の、違いがあれば違いに応じた支給を行わなければなりません。

また、労働者の勤続による能力の向上に応じて行う昇給についても同様です。

【賞与・役職手当】
会社の業績等への労働者の貢献に応じて支給する賞与、役職の内容に対して支給する役職手当については、同一であれば同一の、違いがあれば違いに応じた支給を行わなければなりません。

【教育訓練】
職務に必要な技能・知識を習得するために実施する教育訓練については、職務内容に応じた実施を行う必要があります。

まとめ

同一労働同一賃金の施行により、人件費の増大や待遇に関する説明責任の増加など、企業にとって負担となることが増えますが、一方で、非正規雇用労働者の待遇が改善されることで、非正規雇用労働者の業務の効率化や生産性の向上につながり、人材不足の解消の一助になる可能性もあります。

同一労働同一賃金を実現させることで、多くの人々がそれぞれの事情に応じた多様な働き方を実現できるのではないでしょうか。

次回は、人材派遣においての同一労働同一賃金を取り上げます。